空き家サポート研究会

行政代執行による空き家の撤去

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日本の空き家の現状

今回は「行政代執行による空き家の撤去」について話をしたいと思います。

行政代執行とは

「行政代執行」とは所有者に代わり行政が空き家の適正管理に向けた取り組みを
行うことです。所有者に対して何度も改善を要求しているにも関わらず、所有者
が対応しない場合に行政が強制的に敷地に立ち入り、必要な対策を取ることが
できます。たとえば道路に越境している木の枝を切ったり放置されているゴミを
撤去したり倒壊しそうな家屋を解体することができます。

今、老朽化した空き家が各地で増加し、全国の自治体が公費による撤去を迫られて
います。建物の解体に要した費用は建物の所有者が負担するのが原則ですが
所有者が不明の場合は自治体が撤去の費用を負担することとなります。その結果、
空き家対策に悩む自治体が増えています。
では「空き家対策特別措置法」に基づき行政代執行で撤去された事例を
見ていきたいと思います。

略式代執行による空き家の撤去 -東京都台東区のケース

東京都台東区 空き家対策特別措置法による略式代執行の実施

東京都台東区では2018年1月、「空き家対策特別措置法」に基づき、老朽化で
倒壊の恐れがある空き家が撤去されました。所有者が判明しないケースに使う
「略式代執行」で建物全体が解体されたのは都内で初めてのケースです。
取り壊された空き家は木造2階建、延面積約40㎡。家屋全体が傾いており
隣接する建物に被害が及ぶ恐れがあり、そのうえ、敷地や建物内のごみなど
の放置により、害虫も発生。放火による出火や延焼拡大の危険もあります。

50年間放置された台東区の空き家への略式代執行

台東区は所有者を特定するため、聞き取り調査などを実施しましたが、不動産
登記簿にこの建物は存在しません。やっと探し当てた土地の所有者に問いただ
しても、誰がいつ建てたのかもわからず、土地を貸した契約書すらなく、違法な
状態のまま50年以上も放置されていました。そのため、空き家対策特別措置法
に基づく略式代執行の実施を決めました。解体費用は約150万円で、持ち主が
今後も見つからなければ、台東区の負担になります。
老朽化し倒壊の恐れのある所有者不明の危険な空き家はとてもやっかいですね。

空き家対策特別措置法

空き家対策特別措置法 2015年 施行

「空き家対策特別措置法」とは、適切に管理されず、倒壊の恐れや衛生上の問題
などがある建物を市区町村が「特定空き家」に認定し、修繕や撤去を所有者に
指導・勧告する制度です。命令に従わない場合、「代執行」で強制的に解体でき
その費用は建物所有者や相続人に請求されます。
では「代執行」と「略式代執行」の違いを説明します。

代執行

代執行とは、義務者が行政上の義務を履行しない場合に、行政庁が自ら義務者のなす
べき行為をなし、その費用を義務者から徴収することをいいます。行政上の強制執行
の一種です。

略式代執行

また、「略式代執行」とは、従来は代執行できなかった所有者不明の場合にも、2015年
5月に施行された「空き家対策特別措置法」の規定によって可能になったものです。
費用は行政が負担します。

台東区以外にも、全国各地で公費により空き家を撤去する動きが広がっています。
国土交通省によると、空き家法に基づき市区町村が解体などの代執行や略式代執行に
踏み切った物件は、2018年3月末までで98棟にのぼり、所有者に修繕や撤去を勧告した
事例は552件です。

空き家対策特別措置法に基づく措置の実績

2015年5月に施行された「空き家対策特別措置法」によって、これからもさらに危険な
空き家の撤去件数が増えると予想されます。では次に愛媛県における空き家の撤去に
ついて説明します。

略式代執行による空き家の撤去 -愛媛県四国中央市のケース

略式代執行で解体される愛媛県四国中央市の倉庫

愛媛県四国中央市は2018年6月、「空き家対策特別措置法」に基づき、老朽化して
倒壊の恐れがある空き家1棟を撤去しました。所有者が特定できない場合の「略式
代執行」で、屋根や柱などがある建築物では県内初です。
空き家は木造鋼板葺き平屋建ての倉庫約185㎡。壁がなく、むき出しの柱が傾き、
屋根の一部と見られるブリキ板が隣接する川に落下するなど危険な状態です。
市の職員が現場で略式による行政代執行を宣言したあと、作業員が重機で取り壊し
作業を行いました。撤去費用約48万円は自治体が全額負担します。市によると、
倉庫は築年数不明で、市内の建設会社が資材の保管に使っていましたが、2011年に
会社が倒産、破産手続きが終結し、所有者不在のまま放置された状態でした。
市はこの倉庫を「特定空き家」と判断。台風シーズンを前に略式代執行に踏み切り
ました。近くに認定こども園や住宅があり、道路に面していることから、崩壊の
危険性を指摘する声が市に寄せられていました。

総務省の2013年の統計によると、愛媛県内の空き家率は17.5%で全国
ワースト6位と空き家問題は県内全域で深刻な課題です。
空き家の所有者に
とって、行政代執行は最も避けるべき事態です。代執行の費用は所有者に
請求されます。もし、その支払いを拒めば自宅などが差押えられてしまいます。

空き家の所有者や相続人は、空き家を放置することがどれほど近隣や自治体に
迷惑を及ぼす重大な事態であるかを認識し、所有する空き家を適正に管理する
必要があることを強く心得ておいてほしいものです。