今回は「分譲マンションの空き家問題とは」というテーマでお話します。
今、所有者不明の分譲マンションが増え管理費や修繕積立金を徴収できず区分所有法に
基づくマンション管理が難しいケースも出てきています。
今後老朽化マンションが増えれば、相続を放棄される住戸が増える可能性も高くなって、
より深刻になると思われます。
増えている分譲マンションのストック数と実状
では全国の分譲マンションの実態を説明します。
全国の分譲マンションのストック数は2017年末時点で644万戸です。
このうち築30年を超えるマンションは184万戸、築40年を超えるマンションは
72万戸で、ストック総数の11%です。築40年を超えるマンションは今後10年で
約2.5倍の184万戸に、そして20年後には約5倍の351万戸に増える見込みです。
また建物の老朽化が進行するとともに所有者の高齢化も進行し、居住者が60歳以上のみ
のマンションの割合は1970年以前の完成では52%、1971年から80年の完成
では48%に達しています。そして、1981年以前に建てられた「旧耐震基準」の分譲
マンションのストックは全国に約104万戸存在するのが実状です。
分譲マンションにおける所有者不明の問題とは
さて、2018年1月、首都圏のあるマンションの管理組合の出来事を説明します。
総会で理事長が発言した「総戸数24戸のうち3戸について区分所有者の住所氏名が
特定できない」という説明は出席者に衝撃を与えました。
その3戸は空室のままで管理費と修繕積立金の滞納が続き、そして支払期日から5年近く
経過し、支払請求権の消滅時効も迫っていたことから、管理組合は家庭裁判所に対し、
不在者財産管理人の選任を申し立てる決議をしました。
しかし、不在者財産管理人がその住戸を売却できたとしても滞納分に見合う売却代金を
得られるかどうかは不透明です。
分譲マンションの所有者不明問題は戸建住宅より深刻
では次に分譲マンションにおける所有者不明の問題は、戸建住宅より深刻な影響を
及ぼすということについて説明します。分譲マンションは共同住宅という性質上、
管理組合の運営には「区分所有法の規定」が適用されますが、
■所有者が不明の場合
①管理費や修繕積立金などが徴収できなくなる
②管理が行き届かず、周囲の住環境を悪化させる
③管理組合の意思決定の足かせになる、という問題が発生します。
この内、③の「管理組合の意思決定の足かせ」について説明します。
「区分所有法の規定」により、通常の事項の決議には区分所有者と専有面積に応じて
所有者が持つ議決権のそれぞれ過半数の賛成が必要です。また特別決議事項である
「規約の変更・廃止」などは4分の3、「建て替え」は5分の4の賛成が必要です。
さらに「建て替え」ではなく「解体」する場合は区分所有法に規定がないため、
「民法の規定」に従い「区分所有者全員の合意」が必要となります。
このように区分所有者の所在が一人でも不明であれば、重大事項を決められない
リスクが拡大していきます。分譲マンションの「所有者不明問題」は大変ですね。
マンションの所有者が不明になる原因
国土交通省が2017年にマンション管理組合を対象に実施した調査に
よると、回答した639組合のうち連絡がつかない所有者が存在するのは、
87組合の14%でした。
マンションの所有者が不明になる原因は
「相続が発生しても相続登記がされない」ことです。
■相続登記がされない理由は
①相続人は他に家を持ちマンションに住む必要がない
②固定資産税・管理費・修繕積立金などを支払いたくない
③立地の悪いマンションで売却も賃貸もできそうにない
④老朽化して相続したいと思うほどの価値が見出せない
⑤相続人の協議がまとまらないうちに次の相続が発生した、などが挙げられます。
次に、「所有者不明」ではなく「所有者は確認できるものの空き家」という
住戸も増加しています。マンションの空き家率は、国土交通省の調査によると
古いマンションほど高く、1970年以前の完成では11.1%に達しています。
マンションが空き家になる理由とは
■マンションが空き家になる要因は
①セカンドハウスや倉庫などに利用している
②売却したいが買い手がつかない
③賃貸に出したいが借り手がつかない
④マンションが売れ残って空き家になっている
⑤外国人などが投資を目的として所有している
⑥高齢所有者の死亡後に子どもが放置している
⑦相続人の相続放棄により空き家になっている、などの要因が考えられます。
現在分譲マンションの住人の自治を前提とした「区分所有法」は人口減少時代の
マンションの実態に合わなくなっている、という声も聞かれます。
区分所有法の見直しや分譲マンションの新たなルールづくりを幅広く議論して
いく必要があると思います。